相変わらずゾルダの破壊力は凄まじい。ヒュドラ相手でもあっという間だった。こういうのをチートって言うのだろう。アニメやマンガの世界なら、俺がこういう能力を持っているはずなのだが……「ほれ、おぬし。 ボーっとしておらずに、とどめを刺すんじゃ」「相変わらず規格外の力だな」「おいしいところだけ残しておいてやったのじゃからありがたく思え」確かにおいしいし、ありがたいけど……これって俺いるか?って感じにもなる。氷漬けになったヒュドラに一閃すると、ガタガタと音をたてて崩れ落ちる。まぁ、これで一緒に戦ったことになって、俺の経験にもなる訳だが……異世界転移して俺TUEEEってなってないな。でも、何の因果かわからない。だけど、チートなゾルダが封印されている剣をもらえたのはラッキーだったかも。「さぁ、これでここは終わりじゃな。 さっさと帰るとするかのぅ」ゾルダは仕事は終わったとばかりに帰ろうとする。「いやいや。 まだ社を確認出来てないって」大事な仕事が残っているのだが、どうにもゾルダはそんなことはどうでもいいようだ。「確かにそのような話を小娘がしとったなぁ」「小娘ってアウラさんのこと?」「そうじゃ、ワシからしたら小娘じゃ。 では……あとはおぬしに任せた」「おい、ゾルダ!」ゾルダは戦いが終わるとさっさと剣へと帰ってしまう。まだ目的の1つしか終わってないんだけどな。祠を探すために歩き始めた。しかし、ゴツゴツした岩が視界をさえぎり思うように探せない。この前の森では大きな木の中に祠があった。ここもそういう類だろうか。少し上りやすそうな岩を見つけて上って辺りを見回してみる。「どの辺りかな」とにかくこの辺りで一番大きな岩を探してそこに行ってみよう。「あっ、あそこが一番大きそうだ」岩が多い丘の中でもかなり目立った大きさの岩を見つけることが出来た。さっと飛び降り、急いで大きい岩へと向かう。ところどころにまだサーペントが残っているが、一撃で倒せるのでそれほど苦にならない。大きい岩の近くに着くと丹念に周りを確認した。すると人が一人入れるくらいの穴を発見した。「よっしゃ、ビンゴ」予想が当たって嬉しい。すると、ゾルダが話しかけてくる。「何を小躍りしておるのじゃ」「いや、祠の入口らしきものを見つけたから、つい嬉しくなって」
勇者様は北東部の丘でしたっけ……あそこは岩だらけで、あちこちにキノコみたいに生えているので、迷いますよね。勇者様も迷子になっていなければいいのですが…迷子になったら、なったで私が助けに行けば……うふふふふふ……って、こんなことを考えている場合ではなかったですね。風の水晶を作らないといけませんでした。たしか、あそこの本棚にあったと思いますが……目的の本棚へと足を運んでいく。上から順に指をさしながら、確認をしていった。あっ、あったあった。確かこの本だったと思います。本を開いて1ページ1ページさっと見ていきます。ここじゃない、ここじゃない、どこでしたっけ……数十ページ進んだところで、手が止まる。ここでしたか。どれどれ……風知草(かぜしりそう)の根と玻璃(はり)が必要っと……それで結晶を作り、風の呪文である『ゲイル』を閉じ込めて作るっと。玻璃はたしか家にあったような気がします。風知草は無かったかな~。「カルム! カルムはいますか?」カルムは私がいろいろとお仕事をお願いしているこの村一番の強者です。勇者様ほどではないですが、何か起きた時には頼りになる者です。遠くに行くときには身辺の護衛もお願いしています。「はっ。 私奴はここにおります」いつもでも私が呼ぶとすぐにカルムは来てくれます。本当に助かります。「いつも早いわね。 風の水晶を作るために、風知草の根が必要なの。 取ってきて欲しいなと思って」カルムに今回の用件をお願いします。いつも頼ってばかりで申し訳ないけど……「はっ。 早速、取りにいってまいります」相変わらず行動が早いですね~。あっと言う間に目の前からいなくなりました。カルムだから何も心配せず任せられるわ。すぐにでも戻ってくるでしょう。私は風の水晶を作るための準備をしましょう。部屋に戻って、調合のための準備を進めます。これと、これと、これと……道具などもすべて準備できましたわ。あとはカルムが戻ってくるのを待つばかりです。しばらくするとドアをノックする音が聞こえてきました。「コンコンコン」「はーい」入口に向かって歩いていきます。「カルム、やっぱり仕事は早いわね」扉を開けながら話しかけます。ただ開けてビックリ。勇者様がそこにいらっしゃるではないですか。「アウラさん……
北東部の丘の祠で助けたフォルトナと共にシルフィーネ村に戻った。フォルトナがアウラさんのところへ行くと言うので、状況の報告も兼ねて向かった。そこで聞かされた事実にビックリ。アウラさんとフォルトナが母娘だったって……「なぁ、ゾルダ。 フォルトナがアウラさんの娘だったってビックリしたな」思わずゾルダに同意を求めてしまった。「そうじゃのぅ。 同じシルフ族だとは思っていたが、親子だったとはのぅ」親子だと言われれば確かに容姿は似ている。でも、性格は全然違うので、微塵も思わなかった。あのやさしそうでおっとりしたアウラさんから、この元気な娘さんが……仰天の事実にしばらく呆気に取られていた。するとアウラさんが不安そうな顔で話しかけてきた。「あのー、お話を進めていいでしょうか……」申し訳なさそうに俺のことを見ている。「あっ……はい。 話を進めてもらって大丈夫です」俺の言葉を聞いて安心したのか、アウラさんはにこやかな顔つきになる。「風の水晶の材料が揃いましたので、早速制作にとりかかろうかと思います~。 勇者様も見ていかれますか?」手伝えることもなさそうではあるけどどうしようかな。考えていると、不機嫌そうにゾルダが顔を覗き込んできた。「ワシはもう疲れたし、早く宿に帰ろうぞ」早く終われと言わんばかりだ。「ゾルダは早く酒が飲みたいだけだろ」ここのところ毎晩のように酒を飲んでいる。今まで封印されて飲めなかった分だと言って。「そっ……そんなことはないぞ。 ちょっとだけは思っていたがのぅ」ちょっとだけと言葉では言っているけど、それが本心だろう。「ちょっとだけじゃないだろ。 気持ちはわかるけど、せっかくだから少しだけ見ていこうよ」「仕方ないのぅ……」ゾルダはシュンとした顔をして、渋々承知したようだった。「アウラさん、少しだけ見させていただきます」そう伝えるとアウラさんは嬉しそうに答えてくれた。「わかりましたー。 じゃあ、こちらへ来てください。 あと、フォルトナも手伝って」「えー、ボクもー?」不満げな顔をするフォルトナに対して、アウラさんの厳しい視線が飛ぶ。「もー、わかったよ。 まったく人使いが荒いんだから」フォルトナも膨れた顔をしながらついてきた。家の中に入り、連れてこられた部屋は薄暗く理科の実験室のような機材
「いててて……」頭がガンガンするぞ。風の水晶を作った翌日に北の洞窟へ向かっているのじゃが……どうにもこうにも頭が痛くてたまらん。「そりゃ、あれだけ酒を飲むんだから、 翌日に二日酔いにもなるよ」分かり切ったという顔であやつが話しかけてきた。「いいや、これぐらいの量、前はなんともなかったぞ」封印前はもっと飲めていたはずなんじゃが……「それだけ年をとったってこと……」なんと失礼な物言いじゃ。ワシを何だと思っている。「おぬし、その言い方はなんじゃー! ワシは年などとっておらぬぞ」あやつの胸ぐらをつかみ、にらみを利かせてみる。「ごめんごめん。 長いこと封印されていた影響でもあるんじゃない?」そうじゃ、そうじゃとも。ワシがこんなんになるのは、それ以外考えられぬわ。「フーインってなんのこと?」不思議そうな顔で小娘の娘がこちらを見ておる。そういえば小娘の娘が一緒におったんだったわ。「なっ……何でもないよ、フォルトナ。 それより北の洞窟はあとどのくらいかかる?」あやつ、うまくごまかして話をそらしおった。これぐらい剣も上手くなってくるといいのじゃがのぅ。「うーん。 まだまだ先かなー。 それに、まださっき村を出たばかりじゃん。 そう早くは着かないよ」「それはそうだね…… は……はははは……」話は上手くそらせたけど、詰めが甘いのぅ。振った話がそれじゃ、話も続かんじゃろ。「おい、小娘の娘! この騒ぎが起きてから、北の洞窟には行ったのか?」これから向かう北の洞窟での様子を聞いてみた。「だから、小娘の娘って言い方は止めてよー。 ボクはフォルトナという名前があるんだから」言い方が気に食わない様子じゃ。小娘の娘が口を尖らせておる。「小娘の子供だから、小娘の娘と言って何が悪いんじゃ」ワシは間違ったことはいっておらんぞ。「間違いじゃないけどさー。 人を呼ぶときは名前があるんだから、名前を呼ぼうよ。 ね~、お・つ・き・の・ひ・と」小娘の娘はわざとらしい笑顔をこちらに向けてきた。腹立たしい。「お前だってワシの名前を呼んでいないぞ」「だってわざとだもーん。 こっちも名前で呼ばれるまでは意地でも呼んであげない」雰囲気が悪くなってきたのを感じてか、あやつが割り込んでくる。「まぁ、まぁ。 お互い意地にならずに
「さぁ、そろそろ先を急ごうか」ゾルダの二日酔い(本人は否定しているけど)がひどいのもあって、休憩をしていた。少し休憩したこともあって、ゾルダもだいぶ回復してきたみたいだけど……「ふぅわ~~」「よう、寝たわ」「起きたようだね、ゾルダ」「少し寝たら、頭が痛いのも落ち着いてきたぞ」「これなら、洞窟に着くころには、全開になっているから安心しろ」「よかった」「期待しているよ」寝ていたゾルダが起きてきたようだ。「あーあ、こんなところで休憩しなければもっと早く着いたのに」フォルトナ、そんな刺激することを言わなくても……「小娘の娘!」「お前、ワシに文句があるのか?」「文句はないよ」「事実を言ったまでだよー」事実でも刺激はするだろう。「まぁまぁ」「ゾルダもフォルトナも今はそんなこと言い合わなくても」「休憩して遅れたのも確かだけど、ゾルダが回復すればさらに早く進むことが出来るから」「たぶん、これでいってこいだ」「そういうものかなー」「さすがわかっておるな、おぬし」急がば回れだし、この休憩が吉と出ると言い聞かせよう。これでしっかりと休んだし、先に進んでいけるだろう。それからゾルダの調子も良くなったこともあり、順調に進めることが出来た。ただ北の洞窟に向かう道はそれなりに険しく、時間のかかるものだった。それでも、確実に洞窟へ向けて進んでいけた。しばらく進んでいくとさらに険しい山道へと差し掛かった。この山の中腹に北の洞窟があるらしい。「あともう少しかなー」「いつもこんな道を登っていったのか、フォルトナ」「そうだねー」「でもいつもは風魔法で移動しているから、そこまでではないよ」「えっ、そうなの?」「俺、まだ移動魔法は覚えてないからな」レベルもそれなりに上がったけど、なんか移動が楽になりそうなものは一向に覚えない。ゾルダ曰く、それぞれの特性があるらしく、俺にはそういう系統の魔法は高いレベルに設定されているのではないかとのこと。でも、やっぱり楽はしたいなとは思う。「俺も早く移動魔法を覚えたいよ」「この山道を登っていくのはきついよ」「ボクも付き合っているんだから、そう言わないで」「そうじゃ、そうじゃ」「ワシも付き合っているんだからのぅ」いや、ゾルダは浮いているだろう。楽しやがって。「おつきの人は飛んでいるじ
あやつは相変わらずとろいのぅ。こんなトロイトごときに苦戦しよって。まぁ、でも少しは傷つけられるようになったのは成長しておるのだろう。もう少しへっぴり腰が直れば、致命的な傷もつけられるようにはなるかもな。まだまだ強くなってもらわねばならぬのに。これぐらいの相手なら、一瞬で終わらせてほしいぞ。「さぁ、遊びは終いじゃ。 とっとと終わらせるぞ」興奮しているトロイトの前へと進んでみた。「ブホ、ブギッ」あれだけ興奮しておったら視界が狭くなるのぅ。真正面しかみておらんわ。「ブホブホ言いながら興奮するな。 まずは落ち着け」トロイトに向けてそう言ってみるが……「ブモブモー」変わらず怒り狂っておるようじゃ。「まぁ、そんなこと言っても通じんか。 ワシにとってはこのまま興奮していてもらってもかまわんがのぅ」トロイトは確か地属性だったかのぅ。相性からすると水属性なのだが……「さてと…… 普通なら相性を考えて、水の魔法を使うのじゃが……」あやつも力をつけているから、ワシの力もだいぶ……これならどの属性でも大丈夫じゃろ。「すぐに終わらせてやるぞ」トロイトに対して見えを切ってみたのじゃが……「ブロロロロー、ブモブモブモブモー」余計興奮させてしまったようだのぅ。これが本当の猪突猛進ってやつかのぅ。勢いよくこちらに向かってきた。「あーあーあー。 いやだのぅ。 力任せに来る獣は……」ワシの目の前で突進してきたトロイト。顔の前にさっと手を伸ばすと、ビックリしたのかトロイトの動きが止まった。「何か感じたか。 これを感じることが出来たのであれば、まぁ及第点じゃ。 じゃが、動きを止めたらいかんぞ、お前」ワシの魔力に圧倒されたのか、怯えながら後ずさりをし始めたぞ。「もう、遅いわ。 闇の炎(ブラックフレイム)」黒い炎が手のひらからほとばしる。いつもより力が溢れている感じがするのぅ。炎もいつもより力強くでているようだ。そしてトロイトが黒い炎に包まれる。「ブフ、ブブフ……」炎で燃え盛りながらもさらに後ずさりして逃げようとしておるわ。「ほほぅ。 さすがヌシと言われるだけあるのぅ。 この一撃だけでは燃やしきれんか」結構な力で放ったと思ったのじゃが……まだまだ完全復活ではなさそうじゃのぅ。「それではもう少し放つかのぅ…
何、あの魔法。あんなでかいイノシシを焼き尽くしちゃったよー。どう見てもおかしいでしょ、あの力。おつきの人はいったい何なの?何者なの?あんなめっちゃ強い人を従えているアグリって……もしかして……もっと強いの?さっきはあまりダメージ与えられていなかったみたいだけどー。もしかしてカモフラージュ?おつきの人に花を持たせた?なんか頭の中がグルグルするよー。どう接していいかわかんなくなっちゃったー。今まで『小娘の娘』って言われてムカついたから、言い返していたけど、大丈夫だったかな。「おい、小娘の娘!」急にゾルダがボクを呼ぶ。「はっ、はいっ」思わず声が上ずる。「さっきからかなり静かだが、何かあったのか? 心ここにあらずって感じじゃぞ」そりゃー、あんなの見せられれば心はどこかに行っちゃうよー「な……なんでもないよー、ゾルダ……」あれ?そういえば、呼び捨てでいいのかな?呼び捨てでも怒られるかなー「ん? 何故かさっきから、ワシの事を名前で呼んでおるのぅ。 『おつきの人』とは言わないのか?」もう『おつきの人』なんてもう言えないよー。そんなこと言ったら何されるかわからないよー。「いや、あの、その……」ちょっとしどろもどろになっちゃった。なんて答えよう。「なんかしおらしいのぅ。 意固地になって、『おつきの人』と言っておったのに。 なんだ、もう終わりか、つまらんのぅ」ゾルダがボクを煽ってくるんだけど……「も、もう意地を張るのを止めただけですー。 こ……これからは、名前で呼んであげるー」ちょっと強気に出ちゃったけど、大丈夫かなー。「ワシは変えんぞ、『小娘の娘』は『小娘の娘』じゃからのぅ」ちょっとムカつくけど、あれだけの強さを見せつけられると逆らえないよ。もう好きにすればいいさ。「も、もうボクのことは好きに呼んでいいよ、ゾルダ……様……」あっ、思わず『様』までつけちゃったよー。ゾルダに聞こえてなければいいけどなー。「おい、お前!」ビクッとなりながら、ゾルダの顔色をうかがう。「『様』まではつけんでもいいぞ。 あやつからも呼び捨てだし、『ゾルダ』でよいぞ」「……わかったよー」やっぱり『様』まで聞こえていたんだ。でも呼び捨てで良かったんだー。さっきは呼び捨てで呼んで大丈夫かって思ったけど、そこは気に
洞窟の最深部--開けた広間のような場所の入口についた俺たちは中の様子を伺った。広がった空間の中心に祠が見える。周りには魔物の姿は見えなかった。安心したのか気が逸ったのかはわからないが、フォルトナは祠に向けて走りはじめていた。「フォルトナ、待て」と声をかけた瞬間に、上の方から羽の音が聞こえてきた。「うわー」ズドーンと地面を叩きつける音がして、フォルトナが倒れる。砂埃が舞い、辺りの視界が遮られる。どうやらフォルトナに覆いかぶさるように魔物が上から降りてきたようだ。「大丈夫か、フォルトナ!」大きな声で叫ぶ。「ううう……」微かにフォルトナのうめき声が聞こえてくるも、はっきりとした返事が返ってこない。どうやら気を失っているようだ。しばらくすると砂埃が落ち着き、徐々に魔物の姿が現れてきた。双頭の犬の姿をしており、背には翼、そこから尻尾にかけては蛇が生えていた。「お前は……」姿が徐々に見えてきたところで、ゾルダが目を見開き、声を発した。「誰じゃったかのぅ……」えーっと……先日ゾルダが頭を悩まして考えようとした魔物じゃないのかな。あれほど悩んでいたのに見ても分からないなら、考えてもわからないだろう。つい苦笑いをしてしまう。「えっ、ゾルダは知っているんじゃないの?」「ワシは知らんぞ、こんなやつ」「知らんのかーい」思わずツッコミを入れてしまう。「そこで何をごちゃごちゃ話している」低い声が魔物から聞こえてくる。「我の名はシエロ。 オルトロスのシエロだ。 覚えておけ」名前付きの魔物なんて初めてじゃないか。今まで戦ってきた魔物は種族しかなかったし。するとゾルダが、「おー、そうじゃったそうじゃった。 確かにオルトロスという種族は聞いた気がするのぅ。 名前までは知らんがのぅ」あの……そんなに煽るようなことを言わなくてもいいんだけど……「ん? お前は先代の腰抜け魔王ではないか。 ゼド様からは、勇者が怖くて逃げて居なくなったと聞いたが……」そっちも煽り返すのか……「うぁん? 誰が逃げたじゃと!」ほらやっぱりゾルダがキレるじゃん。早々と魔法を打ち出す準備をしている。「ゾルダ、ちょっと待って。 あの魔物の下にはフォルトナがいるんだから。 挑発に乗っちゃダメだって」「おー、そうじゃったそうじゃった。
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ